日比野茶園

日比野茶園

岐阜と滋賀にまたがる霊峰・伊吹山の麓には、春日という山あいの集落がある。春日集落の属する岐阜県揖斐郡揖斐川町(いびがわちょう)は、岐阜を代表するお茶の産地だ。

春日でのお茶栽培の歴史は古く、およそ700年前に植えられたお茶の木が、今も植え替えられずに残っているという。その歴史を尊び、春日では集落のすべての農家が農薬を使わずにお茶を栽培している。春日で日比野茶園を営む日比野賢威(まさたか)氏は、集落きっての若手お茶農家である。

「もともと有機農業や自然栽培をやりたいという思いがあり、家庭菜園を始めました。愛知の農家さんのところで勉強させてもらったりもして。

あるとき知人づてに『お茶やってみない?』と声をかけられて、そのときはお茶栽培については何も知らなかったのですが、せっかくだしやってみるか、というのが今思えばお茶農家になるきっかけですね。その後、春日で製茶業を営んでいる方のところへ弟子入りしてお茶作りの基本を学び、2018年に開業しました。

今ちょうどお茶刈りの時期ですが、一番茶を摘んだ後、高さを調整するために木の上の方を刈り落とします。その後、夏場はひたすら草刈り、秋と春に整枝(不用な枝葉を切り木の形を整える)して、次のシーズンのお茶刈り、というのがお茶栽培のサイクルです。簡単そうに聞こえるかもしれませんが、形になるまでに3年はかかりました。」

栽培品種と在来種

お茶はチャノキという植物の葉っぱを加工して作られる。チャノキにも様々な栽培品種があるが、中でも「やぶきた」系統は現在日本の栽培品種の9割を占めている。やぶきたはその優れた品質と栽培管理のしやすさから、戦後急速に日本全国に普及した。

品種改良をせず、長年その地方で栽培されてきた品種を在来種という。カブやダイズなどは日本各地に在来種があり、春日には春日在来のお茶がある。

「日比野茶園で栽培しているのはほぼ在来品種です。やぶきたは1割くらい。やぶきたは栽培管理のしやすさと品質の安定性に優れていますが、在来に比べると味はやや単調です。在来はやぶきたに比べると成長が遅く、収穫までにかかる時間は1.5倍くらい長いのですが、その分細胞組織がしっかりしていて木が強いです。それが味に反映されている感じで、やぶきたよりも複雑な味がします。それが在来茶のおいしさですね。

在来茶は徐々に知名度も上がってきていて、僕も栽培面積は増やしていきたいと思っています。ただ、今は荒れたやぶきたの畑をどうにかしなきゃという気持ちの方が強いです。春日も高齢化が進んでいて、お茶栽培を続けられなくなっている農家も増えています。伸び放題になっているお茶畑を見ていると、先祖代々ここでお茶を作ってきた人たちのことが浮かばれて、その人たちの思いをむげにはできないって思うんですよね。やる人のいなくなったお茶畑を僕が受け継いで、お茶作りを守っていきたい。」

お茶の木を刈らずにおくとこうなる。ただ、これはこれで美味しいこともあるという。奥が深い。

良いあんばいを見つけたい

「集落全体でお茶の無農薬栽培をしているのは春日の特長ですが、僕は肥料もやりません。というのも、肥料の有無をお茶の味で比べると、肥料をやると味はフラットになるように感じるんですね。品種にもよるので一概に言えませんが、肥料なしだと味に複雑性が増す気がします。僕はこちらの味の方が好みなので肥料をやらずに育てていますが、肥料をやるやらないは農家によって考えが違うし、いろんな考えがあって良いと思います。

肥料をやらない分、土づくりを含め、どのような環境にするかに気を遣います。例えば、一般的に尾根の周りは土地が痩せているので、そういうところでは通路の幅を広めにとります。そうすると日が当たって雑草が生える、つまり有機物が自然と生産されるので、それを循環させてやろうという考え方です。
逆に標高の低いところは土地が肥えているので、通路を狭くします。そうすることでお茶の木にたくさん葉っぱを付けさせ、養分がうまく分散させられるのではと考えています。」

取る雑草もあれば生かしておく雑草もある。畑の状態を見ながら判断する。

余談ではあるが、日比野氏とは、松本にある自然農法センターの農業研修で出会った。1986年生まれで同い年。私自身は農家にはならなかったが、自然農法センターで学んだ経験は自分の中でとても大きな財産になっている。

「お茶農家になったらもう外で勉強できる時間もなくなるだろうとふと思って。農家になる前に研修を受けようと、自然農法センターで農薬や化学肥料を使わない水稲栽培や、自家採種について学びました。センターを出てお茶農家として開業して3年。今も手探りですが、センターで学んだ考え方は、僕のお茶栽培にすごく生きています。

自然に近い状態で栽培しているせいか、『このお茶僕が作りました!』というよりも『ここで出来たお茶です』っていう感覚があるんですよね。山菜取りをしているみたいな。だけど、ただ放置しているだけでもダメで、かといってガチガチに管理するでもなく、いつも良い"あんばい"を見つけたいなと思いながらやっています。」

日比野茶園
代表 日比野賢威

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